実験結果の要約
軽石マルチの有無による鉢内温度等の違いを調べてみました(下表)。
測定項目 | 表面温度(℃) | 鉢内温度(℃) | ||
---|---|---|---|---|
マルチ | なし | あり | なし | あり |
昼前(日向) | 42.8 | 38.6 | 37 | 36 |
昼過ぎ(日向) | 43.6 | 42.1 | 39 | 36 |
夕方(日陰) | 31.1 | 30.6 | 34 | 35 |
1) 軽石マルチをすると鉢表面(用土/マルチ)温度が低くなる効果がありそう
2) 軽石マルチの有無で鉢内温度に大きな差はなさそう
実験の動機
庭の表面温度を測ってみた同日(2024/8/10)、実はもう一つ確認しておきたかった、マルチングが鉢内温度に与える影響も調べていました。
私は主にバラの鉢植え(7号鉢以上)で軽石(ボラ土)中粒をマルチ剤として鉢の表面に敷いています。その理由は、コガネムシ産卵抑制、鉢内温度の昇温抑制、水切れ抑制の効果があるのではないかと考えたからです。
しかし、バラ栽培の参考にさせて頂いているバラの家の木村卓功さんが、YouTubeチャンネルの「バラ塾」で度々マルチング不要論を語っておられます。以前から土の乾湿が分かりにくくなるので水やりが難しくなるという趣旨のお話しをされていましたが、「#224 酷暑中のバラの夏越しについて 」 https://www.youtube.com/watch?v=RbPIW1DTiV8 で、マルチングは鉢に蓋をするようなもので却って鉢内が蒸れてしまうと言う話をされていました。確かにマルチングが鉢表面からの蒸散を抑えることで鉢内がより高温多湿になる可能性はありそうです。
また、マルチした鉢の乾湿確認のためマルチに指を差し込んで用土の湿り具合を確認しているのですが、夏になって蒸れた暑さを感じていたのも気がかりでした。
しかし、薬剤を使わないコガネムシ対策として軽石マルチの効果はあると感じているので、軽石マルチが鉢内温度・水分にどう影響しているのか確認してみることにしました。
実験の道具と下準備
鉢内温度を調べるため温度を計測できる土壌酸度計をホームセンターで購入しました。ホームセンターのPB品でしたが、輸入元が高儀となっていたので同社が販売しているデジタル土壌酸度pH計と同じ商品のようです。
安価な商品なので土壌酸度計が示す温度(1℃単位、精度±1℃)がどの程度信頼できるか事前にチェックしてみました。高価な較正済みの温度計は持っていませんが、比較的高精度とネットで評判の「A&D みはりん坊ダブル AD-5687 」、1週間程度の温度・湿度変化を記録できる「タニタ 温湿度計 TT-580」と並べて室内の近い場所に置きました。
結果、A&D26.8℃、タニタ27.2℃、土壌酸度計27℃で大きな差は無く、どの温度計も概ね信頼できそうです。
今回は条件を揃えるため、同じサイズの空きがあった5号スリット鉢に、偏りが出ないよう混ぜておいた使い古しの培養土を入れ、片方には用土の上に軽石(ボラ土)を敷き込んでマルチしました。*1
その後、ウォータースペース一杯まで2回潅水し、しっかり水を染みこませました。
潅水後の鉢内温度はマルチなし、ありとも29℃でした。
この酸度計は、DRY+, DRY, NOR(ノーマル), WET, WET+の5段階で土壌水分の目安も表示されます。土壌水分は両方ともWET+でした。
午前中は直射日光が当たる玄関前タイル敷き階段の上にそれぞれの鉢を置いて実験開始です。
午前中(日向)の測定結果
日当たりに置いて1時間少し後の鉢表面温度はマルチなし42.8℃、マルチあり38.6℃でした。マルチありで表面温度が低いのは軽石が白っぽいことと、表面が多孔質で蒸散が起こりやすいことが効いているように思います。
ちなみに、この時の階段表面は53.9℃とかなり高温でした。
その直後の気温は34.5℃。
肝心の鉢内温度ですが、土壌酸度計の温度は土に挿してからしばらくしないと安定しないようです。また、直射日光が当たっていると本体や金属製プローブが熱を持って実際より高い温度が表示されるようでした。
そのため、段ポールや白布で日除けしたり、温度の安定を待ってる間に時間が経ち、日向に置いて2時間弱後の鉢内温度は、マルチなし37℃、マルチあり36℃でした。
土壌水分は両方ともWET+でした。
午後(日向)の測定結果
14時過ぎの気温は36.4℃。
午後になると玄関先は日陰になるので、砂利敷きの日向に鉢を移動しました。
マルチなしの表面温度は43.6℃、ありは42.1℃。マルチが乾いてきたのか表面温度の差は少なくなりました。ちなみに、鉢手前の砂利表面温度は59.6℃!
午後の日当たりのマルチなし鉢内温度は39℃、ありは36℃。マルチによって鉢表面から日射熱が多少伝わりにくくなったのかも知れません。
土壌水分はマルチなしがWET+、ありがWETでした。
夕方(日陰)の測定結果
庭全体がほぼ日陰となった17時前の気温は34.4℃。この少し前から、鉢を再び玄関前に移動しています。
玄関前階段タイル表面は、日当たりだった11時前の53.5℃から37.3℃に下がっていました。
鉢表面温度はマルチなしが31.1℃、ありが30.6℃。温度差が小さくなりました。
鉢内温度はマルチなし34℃、マルチあり35℃でした。また、土壌水分はマルチなしがWET+、ありがWETでした。
実験のまとめ
測定結果をまとめると下表の通りです。
測定項目 | 表面温度(℃) | 鉢内温度(℃) | 土壌水分 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
マルチ | なし | あり | なし | あり | なし | あり |
昼前(日向) | 42.8 | 38.6 | 37 | 36 | WET+ | WET+ |
昼過ぎ(日向) | 43.6 | 42.1 | 39 | 36 | WET+ | WET |
夕方(日陰) | 31.1 | 30.6 | 34 | 35 | WET+ | WET |
鉢表面温度(用土/マルチ)は、一貫してマルチありの方が低い温度でした。軽石が白っぽいことと多孔質の表面から蒸散が起こりやすいことで、表面温度が低めに保たれたのではないでしょうか。
鉢内温度は日向に置いた時にはマルチありの方が若干低い温度を示し、日陰では逆となりました。この温度計で鉢内温度を安定して測定するのは難しかったため、この違いの評価は難しいのですが、少なくともマルチの有無で鉢内温度が大きく変ることはなさそうです。
土壌水分は目安程度の値でしょうが、予想に反して昼過ぎからマルチありが若干水分が少ないという結果になりました。鉢の重量変化を測って蒸発した水分を推定すれば良かったのですが、土壌水分については評価を保留したいと思います。
今回は比較的小さな5号スリット鉢を使って実験したので、周囲の温度の影響を受けやすく、マルチの有無による差が出にくかった可能性がありますので、機会があればより大きな鉢で再検証してみたいと思います。
今回実験をしてみて、マルチを敷くことで鉢内温度が却って高くなることはなさそうなので、鉢内温度の面ではあまり心配しなくても良さそうです。
また、土壌水分の面では今回は違いがよく分かりませんでしたが、軽石マルチをすることで鉢表面からの蒸散が抑えられ、用土が乾きにくいのはこれまでの経験で実感しています。やはり、マルチングする場合、水のやり過ぎによる過湿には注意が必要だと思います。
なお、上の写真のようにマルチ直下の用土表面までバラの白根が張っていた事例もありましたので、上手く管理できれば用土の利用効率を上げる効果もあるように思います。
今後も過湿に気をつけつつ、コガネムシ対策として軽石マルチを続けようと思います(偉そうに言いながら水切れが怖くて、ついつい湿り気味で管理しているのですが・・・)。
おまけ(バラ鉢の温度)
併せて、実際に軽石マルチを敷いて育てているバラの鉢内温度も測ってみました。
左の鉢は'ダローズ エニグマ'、右の鉢は'トリニティ'です、軽石マルチに加え土嚢袋を鉢に被せて鉢内温度抑制を図っています。
昼前の状態です。鉢に日が当たっている'ダローズ エニグマ'は39℃、エニグマのおかげで陰になっている'トリニティ'は35℃でした。
ちなみに、同じ頃のミョウガ株元の地温は31℃。35℃近い気温の中、かなり涼しいですね。
また、マルチングをしていないテリハノイバラの鉢土表面は48.9℃とかなり高温になっていました。
続いて潅水の効果を見てみました。潅水前は39℃でしたが、たっぷりと潅水した後には鉢内温度が32℃に下がっていました。毎日暑い時間帯に潅水できれば効果的でしょうが、勤め人には難しいですね。